小説

  • 『雨宿り』
  • ※時系列的にはイリス湖からフルール村に行く途中です。
  •  
  •  ユグドラシルの滴を錬成する旅に出て数日、わたし達は森のなかで雨宿りをしていた。
  • 「フルール村までもう一息だっていうのに、弱ったね。しばらくは止みそうもないよ」
  •  エドワードが槍を抱えながら、そっと息をつく。
  •  雨は激しさを増し、森の中は湖面に沈んだようにうっすらと青みがかっている。。
  •  わたしはポシェットから赤い石を取りだして、ハンカチで擦った。
  • 「何だい? それ」
  • 「擦るとあたたかくなる石なの。エドワードの服、濡れてるでしょ。これを持っていればあったかいよ」
  •  わたしがエドワードにハンカチでくるんだ石を渡そうとすると、彼はすこし目を開いてから、
  •  手でそっと押し戻した。
  • 「僕は大丈夫だよ。きみだって濡れてるんだから、先に使ったらいいよ」
  • 「わたしは大丈夫だよ!」
  •  確かに少し濡れているが、寒いというほどではない。
  •  わたしが彼の手に石を無理やりのせると、エドワードが苦笑した。
  • 「まったく、頑固なんだから…」
  • 「だって、寒くないもの。エドワードはさっきくしゃみをしていたから、寒いんでしょ。
  •  無理しちゃダメだよ!」
  • 「ミニスカートを履いてる君のほうが、絶対に寒いと思うんだけどね」
  •  エドワードがわたしの足を見て悪戯っぽく笑う。
  •  
  • 「エドワード、どこ見てるの!」
  • 「ん?」
  •  エドワードはハンカチに包まれた石を懐に入れる。
  • 「別に何も?」
  • 「……絶対、うそ。エドワードってたまに意地悪なのよ」
  • 「そうかな? 普通だよ」
  •  にっこりと笑う幼馴染にわたしは開いた口が塞がらない。
  •  この幼馴染は昔から優しいけれど、たまにちょっと意地悪な事を言うのだ。
  •  それが彼の恰好良さを引き立てている感じがして、どうにも悔しい。
  • 「……何でふくれっ面してるの?」
  •  エドワードが不思議そうに聞いてくる。わたしは答えるのがものすごく悔しくて、そっぽを向いた。
  • 「きみって、昔から、何を考えてるのかわからないところがあるよね」
  • 「なっ、し、失礼ね! エドワードだって、よくわからないじゃない!」
  • 「面白いって言ってるんだよ」
  •  エドワードは楽しそうに笑い、わたしの手を引き寄せる。
  • 「ほら、僕のところにおいで。子どもの頃は寒い時はこうしてあげただろう?」
  • 「……もう成人してるのに」
  •  とは言いつつ、彼の腕のなかにちょこんと座り込んでしまうわたしだ。
  •  後ろから抱き付かれている格好だが、不思議と心地よい。
  •  物心つく前から一緒にいるせいか、こうしているのが普通のような気がしてくる。
  • 「胸のところがあったかい…赤い石のせいかな」
  •  わたしが頭を摺り寄せると、エドワードはくすぐったそうに笑う。
  • 「そうだよ、ちょっと熱いくらいだけどね」
  • 「えへへ、エドワードとこんなに近くで話をするのって、久しぶりだね」
  •  わたしが笑うとエドワードは首を傾げた。
  • 「そうかな?」
  • 「そうだよ…。剣術学校に通う前以来じゃないかな…」
  • 「となると、4年くらいかな」
  • 「うん。わたし、エドワードが剣術学校に行っちゃって寂しかったな…」
  •  わたしの言葉を聞いて、エドワードが慰めるように優しく頭を撫でてきた。
  • 「もう。子どもじゃないのに!」
  • 「子どもじゃなければ、こんなふうに話はしないだろ?」
  •  そう言われて、自分が子どものようにエドワードの膝元に座っている事を思い出す。
  • 「……う、で、でも、エドワードにだけだもの。テスラやアドニスにはしないもの」
  • 「ん? それって誰?」
  •  エドワードがにこやかに問うてくる。
  •  しかし、何だろう、何だか命の危険を感じて、わたしはちょっと腰が引けた。
  • 「だ、誰だっていいでしょ! わたしにもプライベートってものがあるんだから」
  • 「ふうん」
  •  エドワードは逃げ出そうとするわたしの腰を掴んで、そのまま座らせる。
  • 「な、何! エドワード、ちょっとこわいよ」
  • 「僕は剣術学校に行って、ひとつだけものすごく後悔したことがあるんだ。
  •  何だかわかるかい?」
  • 「えっ……わ、わからないよ…」
  • 「そうだよね、きみが子どものままだったら、本当によかったんだけど」
  •  エドワードが長い溜息を吐くのを見て、わたしは戸惑う。
  • 「どうしたの? 何か嫌な事でもあったの?」
  •  心配になって彼の顔をのぞき込むと、エドワードは苦笑した。
  • 「…ちょっとね、昔話さ」
  • 「??」
  •  彼はハテナマークを顔に張り付けているわたしの頭を撫でてから、立ち上がった。
  • 「雨、止んだみたいだね」
  • 「え? あ…本当だ」
  •  さっきまであんなに降っていたのに、いつの間にか止んでいる。
  •  エドワードは懐から赤い石を取りだして、わたしに渡した。
  • 「これ、ありがとう」
  • 「あ、うん…」
  •  渡した時よりも熱さが増している気がして、わたしは手にもったまま、しばし佇んだ。
  •  フルール村まであと数時間。空はしだいに青さを取り戻していく。
  •  
  •  
  • 【作者より】
  • GAKUEN-天獄がひと段落したので、現在の描き方でエドワードを描いてみました。
  • なかなかよい絵になったので、小説もつけてみましたが、いかがでしたでしょうか。
  • 主人公が話しているのがなかなか新鮮。story in the rainでもあるとおり、
  • 主人公はけっこう頑固&妙に素直な性格です。翻弄されるエドワードに萌える。
  • でも、エドワードはさりげなく主人公をからかって楽しんでますので、
  • ちょうどいいんではないかと…。
  • 掲示版にでも感想いただけたら幸いです。
  •