月光浴
※クリア後のお話なのでネタバレがあります。
ふと、風を感じて目を覚ました。窓が開いているのかと思い、むっくりと起き上がって目をこすると、後ろから小さな笑い声がした。
「やあ、お早いお目覚めだね」
「ナーシサス、何をしてるの?」
ナーシサスは上半身裸の状態で、窓辺に腰を掛けて本を読んでいる。ふしぎに思ってそう尋ねると、彼は夜空を指さした。
「満月だからね。月光浴をして魔力を高めているところ。妖精たちも騒いでいるだろう? きみなら彼らを見ることができるんじゃないの?」
目を凝らしてみると、確かに蝶のような光がゆらゆらと飛んでいる。満月の明かりが木々を青く彩って、湖の底にいるような、ひどく幻想的な光景だ。
「すっかり目が覚めたみたいだね。すこし話でもするかい?」
ナーシサスはとても機嫌がよい。わたしは、日ごろから疑問に感じている事を彼に尋ねてみようと思った。
「……ねえ、前から不思議に思っていたんだけど、ナーシサスはわたしのどこを好きになったの?」
「なんだよ、いきなりつまらないことを聞くね」
彼は読んでいた本に目を落として、いかにもつまらないという顔をした。しかし、ここでくじけてはいけない。
「わたしにとっては、つまらなくないの」
「……まあいいよ、機嫌がいいから、たまには答えてあげようか」
これは千載一遇のチャンスだ。わたしはドキドキしながら、彼の言葉を待つ。ナーシサスは昔を思い出すように夜空を見た後、悪戯っぽく笑った。
「そうだね……僕は女性に怒られるのが嫌いじゃない」
「へ?」
びっくりして目を白黒させる私をよそに、彼は淡々と言い続けた。
「きみは、結構、物事をはっきり言うよね。あと、人をぽかすか叩く。一応、文句は言うけど、わりと嫌いじゃない」
「……ナ、ナーシサス?」
「言っておくけど、そっちの趣味はないよ?」
大事な事だとばかりにナーシサスが厳しい声で付け加えた。彼は何とも言えない表情をする私を見て、ため息をはくと、小さな声で続けた。
「僕の母は、僕が4歳の時に亡くなったんだ。母のことで憶えている事と言ったら、父に説教をする姿くらいでさ。だから、女性から怒られると……母の事を思い出す」
「……」
「きみはさ……僕の事を怒るけど、否定はしない。母も父を怒ってばかりだったけど、結局は父の夢に協力をした。情けない父だったけど、母はそれを支えようとしていたんだ」
「私はナーシサスのお母さんに似ているの?」
「う~ん……そういうわけじゃないよ」
ナーシサスはもっていた本を閉じて、私のほうに目を向けた。
「たぶん、全然違うと思う。僕の母は美人だったしね」
「……それって、どういう意味かしら?」
「ああ、きみは可愛いよ?」
そんな言葉に騙されない。わたしが半眼になって睨むと、ナーシサスはバツが悪そうに頭を掻いた。
「まあ、冗談はともかく…。きみの事が気になったきっかけはそれかな。あとはまあ、根性があるなと思ってさ」
「何だか、けなされているように思えるんだけど?」
「そんなことはないよ。泥だらけで錬成素材を採取している姿や素材を解体している姿とか。僕はけっこう好きだよ?」
「……ナーシサスの趣味はよくわからない」
「だって、僕も魔法使いとして薬の調合や生き物の解体をするからね。それが出来ない女じゃ、話にならない。遊びで付き合うならいいけど、ずっと一緒にはいられないな」
やっぱり褒められている気がしない。私はふくれ面のまま毛布をかけてナーシサスに背をむける。すると、ほどなくして、ナーシサスが機嫌をとるように覆いかぶさってきた。
「怒った?」
「……」
ぽかっとその頭を叩くと、ナーシサスは痛そうな顔をした後、微笑んだ。
「うん、そういうところ、好きだよ」
「褒めてない」
「褒めてはいないさ。ただ、そういう君が好き」
「……誤魔化されている気がする」
ナーシサスは猫のようなしぐさで毛布に入り込むと、紫色の瞳を細めた。
「じゃあ、今から証明してあげようか?」
どうやら今夜は眠れないらしかった。
【作者コメント】
ナーシサスのイベントをやった方で、ぽかぽか叩く選択肢のほうが好感度があがるのを疑問に思った方もいらっしゃったと思います。それがその答えです。あんまりしつこくされたり、本気で怒られるのは嫌いなのですが、ナーシサスは、女の子が機嫌をそこねて、ぽかぽか叩いて来るのを可愛いと思ってます。story
in the rainでナーシサスの父親を見た方はわかると思いますが、気弱でマイナス思考な父なので、逆にナーシサスとお母さんはああいう性格になりました。また、ナーシサスは仕事にひたむきな姿勢を評価するタイプです。主人公のそういう姿を見て、一緒にやっていけるな、と思ったわけですね。
しかし、もっと画像を大きくして描けばよかったなあ。エドワードが大きすぎたので、小さめに描いたんですが、ちょっと小さくて画像が荒いですね…。